レッドズノート

レッドズノート

第7話 信頼

第7話 信頼



 ラムサス達は閉じ込められたまま、その日の夜を迎えた。

 密室と同じ状態なので、火を使うのは危ないかと思われたが、奥の方に空気が通っている小さい穴があったため火をつけても何ら問題はなかった。

「・・・ふぅ、これで寒さとか暗闇は大丈夫だな」

「・・・まさか殺そうと思ってた相手を一緒に夜をすごすことになるとは・・・」

「だーからぁ!そうキビキビするなっての・・・」

 自分が今まで相手してきた子とは、一味違うようだ。などと考えながら、懐のバッグから携帯食料を取り出し、1つをキャロルに差し出す。

「ほら、食いモン。腹減ってるんだろ?食うか?」

「いや、大丈夫。減ってなんていない・・・」

 グゥゥ~・・・

 言い終わる前に、キャロルの胃が抗議の怒号を上げた。

「・・・無理、すんなよ?」

「だ・・・大丈夫だ!減ってなんていないからな!」

 そう言ったきり、プイとそっぽを向いて、横になってしまった。

「・・・強敵だね、こりゃ・・・」

 自分でも何を言ったのかよく意味がくわからないまま、食べ終わるとすぐ横になった。

(でも、食わないってのは体に悪いからなぁ・・・おいといてやるか)

 そう自分の思うままに、さっき渡し損ねた食料を、そっとキャロルの手元においておいた。

「これでよし・・・と、あとは食ってくれればねぇ・・・」

 焚き火のパチパチという音を聞きながら、ラムサスは眠りについた。



 ・・・数時間後

 やはりかなり空腹だったらしいキャロルが、モゾモゾと起き上がった。

「・・・やっぱやせ我慢はよくないか・・・」

 そしてラムサスを見、さっきの食料がどこかにないか探そうと身をのりだす。

「寝てるのか、ずいぶんと早い・・・?」

 自分の手元にある感触に気づき、目を向ける。

 そこには、さっきラムサスが置いておいた携帯食料があった。

 彼女はそれの袋を開け、食料をかじりながら考えた。

 ・・・なんで、敵の分も食料をおいておく?敵なら、置いておかず、食べてしまえばいいはずだ。

 それに、寝込みを襲って、私を殺すことだってできた。

 それなのに・・・なぜ?情けをかけられたとは思えないし、恩を売っているとも思えない。

 彼女には、いくら考えても、理由は考えつかなかった。

 だが、わからないなりに、彼女の胸にあたたかいものが灯った。

 そして、ラムサスが起きていても気づかないような小さい声で、呟いた。

「・・・ありがとう」



 そして次の朝。

「ふぁ~・・・ってもう朝かよ!?」

 自分の寝ていた場所に朝陽が差し込んでいるのに気づいたラムサス。

 そして、驚いた。

「あれ・・・ふさがれてた所が、開いてる・・・?」

 昨日、岩で塞がれていた入り口が、開いていた。

 しばらく呆然とするラムサスに声がかかった。

「起きたのか、そこ、あんがい楽に岩どけられたぞ。」

 朝の日差しを背に受けながら、キャロルが歩いてきた。

「岩っていっても、中身はスカスカでね・・・壊すの、簡単だった。」

 何か昨日と感じが違う? と思いながら、ラムサスは聞いていた。

「昨日、食料置いてくれたの、君だろ?」

「あ、あぁ、迷惑だったか?敵なんかに情けかけられたみたいで・・・」

 ラムサスが頭をかきながら、謝罪する。

 だが、彼の予想とは違う言葉が返ってきた。

「いや・・・やせ我慢してた私が悪いんだ。それより・・・」

 キャロルは腰のバッグから、青い巻物を1枚とりだし、ラムサスに手渡す。

「・・・これ『帰還の巻物』?」

「そう、ここから古都まで、歩いて帰るのは面倒だろ?」

 たしかに、とうなずいた。

「んじゃ、私はそろそろ行くから・・・」

「ファントム、だっけ?・・・見捨てられたも同然なのに、戻るのか?」

「あぁ・・・その事も、聞かなくちゃいけない。それに・・・・・・ファントムは、私の兄だから・・・」

 その言葉に、ラムサスは衝撃を隠せなかった。

 同時に、納得もした。ここまで従順なのは、これほどの仲だったからだ。

「・・・でも、今度は違う。ただ兄の命令に従うだけじゃなく、自分で考えなくちゃ」

 だが、自分の意見など、あのウィザードに通じるのか?と疑問が抱かれた。

 それよりも、よく一晩でこんな変わったな・・・とも思った。

「・・・こんなふうに考えるきっかけは、お前がくれたんだぞ」

「・・・え?俺?」

 そして、彼女は今までにないような笑みを浮かべながら、ラムサスに言った。

「・・・ま、一晩だったけど、色々とありがとっ!」

 ラムサスは、彼女のその表情に見とれてしまっていた。


© Rakuten Group, Inc.